パリに居た1年間、私には二つの特技があった。一つ目は「見知らぬ人から声を掛けられること」二つ目は「小銭を拾うこと」。週に3、4回、いや多い時で一日に2回、この両方の特技を発揮していた。
メトロの階段で小銭、道路で小銭、お店の前で小銭、小銭。しょっちゅうお金を拾うので「フランス人は小銭を捨てる人種」だと本気で信じていた。しかし皆口々に「小銭なんて拾わないし、ましてや捨てたりもしないよ」と言うから、どうやら私にだけ起こる現象らしい。
「お金が欲しい、お金がほしい」と絶え間なく考え続けた結果、小銭が私の目の前に出現したのかしら。謎だ・・・
なぜそんなにもお金が欲しかったか。実はトイレットペーパーを買うのさえ躊躇うほど貧乏生活をしていたからなのだ。ある日デパートのお手洗いを借り、トイレットペーパーを自宅用に4、5枚拝借しかけた事があった。しかしながら私にも自尊心があり、寸でのところでやめた経験がある。姉にこの話をすると「とうとうそこまできたか」と笑われた。見かねた家族が仕送りをしてくれたので、ホームレスにならずに済んだ。
10年ほど前の話になるが、占い師に「あなたはお金の神様です。現世でお金の勉強をする為に生まれた」と言われたことがある。もうあれから10年も経ったんだものね、そろそろお金持ちへの階段を登らなきゃ!豊かさと繁栄だけを思い描こう。お金の神様がトイレットペーパーも買えず、小銭拾いが特技だなんて笑えないものね。