2016年  嘘か誠か

「ニホンジン?」
オペラ大通りを歩いていると、おじさんが出し抜けに声を掛けてきた。私の前に居たのに、何か気配を感じたのか、急にこちらを振り返ったようだった。後ろに目でもあるのかしら、この人。

誰かに似てるのよねぇ・・・誰だっけ。あ、岡本太郎!そうそう、小柄で眼光が鋭く押しが強い感じがオジサンと岡本太郎の共通点。私は素っ気なく返事をし、立ち去ろうとした。しかしおじさんはビタっと粘着テープのように張り付いて、話をやめようとしない。

個人情報を言いたくなかったので知らんぷりしていたが、オジサンはしつこく私の出身地を聞きたがった。言ったところで日本の地名など知らないだろうと思い、故郷を告げたところ《粘着テープ》がさほど大きくない目をカッと見開き「オレそこで働いてたんだよ!」と興奮気味に手をバタバタと振った。

海外の方から見ると私は随分幼く見えるらしく、子供なら騙せると思っているのかもしれない。(この時既に37歳!)

 

《粘着テープ》の話を適当に聞いていたのだが、日本人でも地元の人しか知らない呼び方や地名をちらちらと会話に出してくる。ひょっとして本当に住んでいたのかも。品はないけれど日本語も上手だし。

 

「ちょっとさ、お茶行こうぜ。え?時間ないの?10分。いや5分・・・1分!」

私がOuiと言うまで放さないおじさん。いくら断っても、まぁとにかく切り返しが早い。フランス人は本当に粘り強いわ!

 

「いま時間ないなら、じゃあさ今夜何時に仕事終わる?週末は?え、ダメかよ〜。作品作りに忙しいってのか?あんたアーティスト?俺の母ちゃんは美術教師で、ルーヴル美術館で働いてたんだぜ。それから、来年またそっちで働くから」と言い、彼の電話番号が書かれたメモを私の右手に押し込んだ。

 

生憎《粘着テープ》はこの日の狩りに失敗したが、次の獲物探しに勤しんでいるのだろう。

 

夏になり、故郷に戻った私は念のため《粘着テープ》がこの土地を訪れていないか確かめてみた。今のところ有力な手掛かりは見付かっていない。

2016年、5月

mm
About the author

画家。愛と自由をこよなく愛しています。 Je suis artiste. J'adore l'amour et la liberté !

Shinobu

ブログの話

画家shinobuのブログ。 旅、私の作品、絵画教室についてあれこれ綴っています。 お時間許すかぎりお付き合い下さいませ✨✨ 以前のブログに加筆修正を加えたものです。

Derniers commentaires

Derniers articles

Amazon 書籍発売 ✨
2022.03.07By
2022.01.07By
2021.05.19By