日本から遊びに来た義兄のお母さんにパリ案内をしようと私は張り切っていた。
ほの暗く黴た匂いのする地下鉄の階段を急ぎ足で登り、行き交う人々の流れに沿うように改札口へ進んだ。幸か不幸か、お母さんは私がフランス語が達者だと素敵な勘違いをしてくれている。得意げにパリのよもやま話をしていると、お母さんが改札の手前で急に立ち止まってしまった。切符の出し入れを間違えたらしく、外へ出られなくなったのだ。
インフォメーションでこの事を説明すればいいわよ、と突っ走ってゆくお母さん。外国語が出来ない彼女に代わって私がフランス語で説明しなければいけない、と思っていたのに切符をひらひらさせたお母さんは
「あのね、これ改札通そうとしたんだけど、間違って使えなくなっちゃったの〜。新しい切符と交換してくれる?」と窓口の女性に日本語で話し掛けている。
「Ok !」軽く肩をすくめながら女性は思いのほか簡単に新しい切符を差し出してくれた。あぁ、なんてシンプルなの!フランス語が上手に話せなくて悩んでいた私に最高の答えを教えてくれたお母さん。
いざとなったら日本語で当たって砕けろ、という癖がついたのはこれがキッカケなのでございます。